前回の記事、「教会を建てるのは数百年の仕事」で触れられなかった点について、少しばかり補足しておきたいと思います。
様式の混在は普通のこと
ガイドブックを読んでいると、「ロマネスク式を基調としながらも、ゴシック式やバロック式など、各時代の様式が混在した建物となっています」などという記述に、結構出くわすのではないでしょうか。
教会建築自体、数百年の歳月を要する行為ですから、建設当時に人気だった様式で工事すれば、さまざまな様式が混在することになるのは、いわば当然のことですね。
それに教会を建てる場合、一度更地にして、何にもない所から建てるとは限りません。昔の様式の地下礼拝堂はそのままにして、その上の教会部分だけを最新の建築様式で新築するとか、手狭になったり火事で焼けたりしたロマネスク様式の建物を、ゴシック様式で改修するなどという場合もありました。
たとえば、上の写真の聖イジー教会について言えば、本来は921年に建てられた木造の建物でしたが、火事のあと石造で再建。17世紀にはファサードがバロック様式で二色に塗り分けられるなど、それこそ何回もの改修を経て現代に至っています。
統一感がないのは残念だけれど……
今から振り返れば、「元がロマネスクなら、改築もロマネスクにすればよいのに」などとも思えますが、様式はその時代の価値観の反映でもありますから、様式を統一すれば良いというわけでもありません。それに、最新の建築技術が使えるのに、あえて使わないというのも、やはりちょっと変ではありますね。
結論として言えば……、教会建築というのは、各時代の様式が混在するのが普通のこと。むしろ混在の仕方に、その教会の歴史が反映していると考えて、そこを鑑賞するのが教会見学の面白さと考えてはいかがでしょうか。
こんなこともあり?
ちょっとユニークな彫刻の例をみておきたいと思います。以前、スペイン最古の大学町サラマンカの記事で、「新大聖堂」というのをご紹介しました。
この教会、もとは1513年に工事が開始されたゴシック様式の建物なのですが、工事が18世紀にまで及んだことで、塔や内部の装飾などにはゴシック以降に登場するさまざまな様式が使われています。
ただし、問題はそこではありません。次の2枚の写真を見てください。新大聖堂の扉の脇に彫られた彫刻の一部です。何か変ではないでしょうか?
左側の人物、何に見えますか? 宇宙飛行士に見えないでしょうか。でも、18世紀の彫刻に宇宙飛行士は、やっぱり変ですね。
では、次の写真はどうでしょう。ガーゴイルが持っているものは一体なんでしょうか? あなたもきっと大好きなものだと思うのですが……。
答えは、宇宙飛行士とアイスクリームです。18世紀に工事が終わったといっても、私たちの家と同様、定期的なメンテナンスは行われているわけで、その際に付け加えられたのが、上の彫刻というわけです。
宇宙飛行士は20世紀の象徴。アイスクリームを持ったガーゴイルは、現代の学生たちを表現しているとのことです。
(以上)