旅行のプランを練りつつ、ガイドブックを何冊か見比べていると、「あれっ、どっちが正しいの?」ってことがたまにありますよね。教会の完成した年もその一つで、年代が大きくずれていることもあったりします。
そこで今回は、教会の「完成」について、少しばかり確認しておきたいと思います。
「完成」には2つの意味がある
「着工されたのは11世紀の初め、12世紀の中頃には一応の完成をみましたが、工事はその後も続けられ、最終的にすべての工事が終了したのは13世紀の末でした」
こういった場合、いつを完成した年と考えればいいのでしょうか?
完成までに長い年月がかかるとはいえ、お城に関して言えば、私たちの家と同様、いつ完成したかはさして重要ではありません。ところが教会の場合には、ちょっと事情が違います。教会の完成という場合、そこには「建物自体の完成」と「教会としての完成」という、2つの意味があるからです。
教会とは「神の家」
仏教でちょっと考えてみましょう。木で仏像を作る場合、それはいつから仏様になるのでしょうか? 完成した時でしょうか。それとも、仏様らしくなり始めた時からでしょうか。
答えは、開眼供養を行った時からです(宗派による違いはあるようですが)。それまでは仏様ではなく、単なる木の作品にしかすぎません。
実は教会もそれと同じなのですね。教会は神の家ですが、いつから神の家になるかと言えば、それは「献堂式」が行われた時からです。そしてその時に、教会は完成したと考えられます。
具体例で見てみましょう!
たとえば、ドイツのゴシック様式を代表する「ケルン大聖堂」は、1248年に起工されていますが、大聖堂の象徴とも言える、あの158mの双塔の建設は19世紀のこと。完成したのは1880年でした。でも、献堂式自体は1322年に行われていますから、教会としての完成は1322年となります。
では、ヴェネツィアの観光名所、サン・マルコ大聖堂はどうでしょうか。現在の大聖堂は、3代目にあたりますが、その工事が始まったのは1063年のことでした。完成までに約400年ほど掛かっていますが、献堂式自体は1094年に終わっています。
教会建築には数百年かかるのが常識!
小さな村の教会なら別ですが、中世という時代において、その都市を代表する大聖堂を建てるとなると、むしろ200年ぐらいかかるのが常識でした。戦争や飢饉、あるいは伝染病の大流行などで工事が遅れるのは普通のこと。建設資金がなくなって、途中で中断されることもありました。
要するに、建物としての構造が出来上がって、もう礼拝に使えるとなった時点で献堂式を行い、あとの装飾的な面での工事や大きな塔の追加などは、建設資金の工面なども考えつつ、のんびりと行う。それがまあ、教会建築の一般的な工程というわけです。
教会を設計した建築家はもちろんのこと、一人ひとりの石工にとっても、教会建築はいつ終わるかわからない、明日の知れない仕事でした。でも、それを虚しいと考えた人たちは、多分いなかったと思います。彼らにとって教会を建てるということは、すなわち神への祈りを捧げること。一日一日の仕事に意味があったからです。
(以上)